6 覚悟の重さ

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聖水。 これが、虹色の水と言われる、あの……。 女神様の御業(みわざ)により、この場に出現した真白き小瓶。 それを凝視し、知らず、肩に力が入っていく。 この場でこれを見せてくださったということは、いま賜ることができるということ、だろうか。 とすれば、私は、今日この場で……。 「――だが、今、そなたに与えるわけにはいかぬ」 え? 今まさに、御下賜(ごかし)の可否についてお尋ねしようと口を開きかけたところに、否定の言葉が発せられた。 「ここに取り出してみせたのは、そなたの反応を見るためだ。 だが、その必要はなかったようだな。 一瞬でも恐怖を見て取れば、即座に記憶を奪い、この話は無きものとなっていたが」 婉然と微笑まれた女神様が、聖水の瓶を持っていた手を不意に広げられた。 直後、床に落下すると思われた小瓶は、その途中で跡形もなく消滅する。 それを驚愕しながら見届けた私の視界の中に、黒衣が翻る。 女神様が、再びマントを身につけられたのだ。 「次の満月の前夜。日付が変わる時刻に、再び我のもとへ来るがよい」 フードを目深(まぶか)に引き下ろしたその御姿からは、聞き慣れた(しわが)れ声。 しかし、その正体を知った今は、その声に荘厳な重々しささえ感じてしまう。 「その時に、改めて手渡そう。 それまでに、()すべきことを為せ」 「……は。ありがたく存じます」 (こうべ)を垂れ、退室される足音をお見送りした。
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