1 生贄の少女

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「……眠れない」 一旦、寝所に身を横たえてみたものの少しも寝つけず、葡萄酒でも飲むかと酒杯を持ち、窓際に近づいた。 そこから吹き込んでくる夜風が髪をさらうに任せ、ひと口飲んでから、目を閉じる。 「ふぅ……」 眠れない理由は、分かっている。 こうして目を閉じ、風の音を聴いていてさえ、かの人の姿と声が脳裏に浮かぶからだ。 『お前など、私は産みたくはなかった』 実の母から、何度も聞かされた言葉。 そして、幼い私に嫌そうに向けられていた、冷たい眼差し。 ロキとのやり取りで、カルスが生まれた時のことを思い出したからだろうか。 普段は忘れているはずの亡き母の面影が蘇り、私の心につけられた消えない傷に、じくじくとした痛みを与えてくる。 『お前を我が子と思うたことなど、一度もない』 嫌悪の眼差しを向ける時だけが、母が私に視線を向ける時だった。
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