7 愛情と思慕の狭間で

5/42
前へ
/279ページ
次へ
さて、どう声をかけるべきか。 カルスに隠し事をしているという負い目と後ろめたい気持ちが重なり、つい普段は言わないような口調できつく叱りつけてしまった。 さぞ驚いたことだろう。カルスが悪いわけではないのに……。 「兄上。僕、とても軽率なことを口にしてしまいました。 兄上もお忙しくておられるのに、甘えてばかりではいけませんよね。僕、すごく反省してます」 「いや。私こそ、必要以上に厳しく言いすぎた。済まなかった」 きつい物言いをしてしまったことをどう声かけしようかと思っていたら、カルスの反省の言葉のほうが早かった。 「顔を上げなさい」 謝罪の姿勢のまま俯いている頭に手を伸ばし、顔を上げるよう促す。 今度は、声色に気をつけて。 すると、おずおずと顔が上げられ、肩までの柔らかな茶髪に隠されていた表情が露わになった。 「兄上? もう怒ってはおられませんか?」 不安げな、すがるような光が、澄んだ茶色の瞳を揺らしている。 つきん、と胸が痛んだ。 今更ながらに、自分がきつく叱りつけた理由に気がついたからだ。 「怒ってはいない。最初から、怒ってなどいないよ」 そう、怒ってなどいない。違うのだ。 この弟とこうして過ごす、このひと時に限りがあること。それを私は知っている。 そして、私が王家を去れば、カルスが王太子としての全ての責任を担っていかねばならない。 だから、無条件で私との未来を信じ、兄に甘えてくるカルスに申し訳ない気持ちを抱きながらも、責任ある立場に立つ者としての気概が足りないことへの苛立ちとがないまぜになり、あのような叱りつけ方をしてしまったのだ。 つまり、八つ当たりだ。 私は、なんと自分勝手なのだろう。 この子を置いていく側であるというのに。
/279ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加