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「あぁ、良かった。でも、僕が兄上に叱られるのは当たり前です。
僕、自分が甘ったれた発言をしていたのだという自覚は、しっかりとあるのですから」
「カルス……」
私の言葉に、『良かった』とほっとした表情を見せながらも、反省する姿勢を崩さないカルスに、またもやどう声をかけるべきか逡巡してしまう。
『違う。お前は悪くない。悪いのは、私だ。
私が自分の都合でお前に責任を強要し、勝手に失望しただけなのだから』
そう言ってやれたなら。
「……いや、先程の繰り返しになるが、きつい口調でいきなり叱って悪かった。
お前は、これからも今まで通りに励んでくれれば良いのだぞ」
だが、それは出来ない。
ルリーシェを守るためには、全てを秘匿したまま事を進めなければならないのだから。
「兄上? あの、僕の気のせいでしょうか。
どこか、御加減が悪かったりしますか?」
「何?」
「あっ、おかしなことを言ってすみません!
何となく、兄上がものすごく苦しんでおられるような印象を受けてしまったものでっ」
「……っ」
「それに、先程、外を眺めておられたご様子も、どこか物憂げにお見受けしましたし……。
そんなわけはないのに、兄上がどこか遠くへ行ってしまわれるような、そんな物寂しい気持ちまでが湧き出てしまっているのです」
あ……。
「すみません。取り留めのないことばかり口にして。
僕、本当に変ですよねぇ」
「いや……」
くしゃっと顔を歪め、再度、「すみません」と笑ったカルスに、今度こそ言葉を失ってしまった。
この、敏く、愛らしい弟に、かける言葉が見つからない。
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