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私は、そんなに表情に出していたろうか。
それとも、私自身、気づけぬほどの深層で、実は心が乱れているのだろうか。
カルスに、このような不安を与えてしまうほどに。
だから、直感でそれを察知したカルスが、あんな形で甘えてきたのか?
「カルス。なぜそのように感じたのかは分からぬが、心配は要らぬ」
しかし今は、このような繰り言を並べている場合ではない。
この子に嘘をつくことは出来ないが、不安だけは取り除いてやらねば。
「体調はこの通り良いし、お前が不安に思うことはないぞ」
「はい。僕も気のせいだとは思ったのですが、どうにも不安で……。
実は、偶然にも今朝、母上からも同じように、兄上が何かを思い悩んでおられるのではという話をお聞きしていたもので。
もしかしたら、それが頭に残っていたせいなのかもしれません」
「何? ミネア様が?」
苦笑しながらカルスが漏らした言葉。その内容に、過剰に反応してしまった。
「なぜ、ミネア様がそのような……」
「――失礼いたします。
シュギル様、カルス様。ブランダル将軍がお見えでございます。
お二方に御報告したいことがおありとのことです」
しかし、その内容を問い質す前に、カルスの側近ユミルが入室し、話は中断せざるを得なかった。
「……分かった。
ユミル、将軍を隣の間に御案内してくれ。カルスとともに、すぐに行く」
「はっ。かしこまりました」
「カルス。勉学は、いったん中止だ。すぐに隣室へ向かうぞ」
「はい、兄上」
カルスの書斎の隣は、ちょうど応接室となっており、ふだんは家庭教師として招いた博士たちの休憩室も兼ねている。
勉学の後片づけを済ませたカルスとともにそこに向かいながら、噴き出した疑問について思考を巡らせた。
ミネア様とは今朝の朝見でもお会いしているが、いつもと変わらぬよう振る舞ったつもりだ。
いったい、ミネア様は私のどこに不審を抱かれて、カルスにそのようなお話をされたのだろう?
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