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「シュギル様におかれましては、王太子殿下の御身分として甚だ不本意な御処置であると存じますが、どうぞお聞き届けくださいますようお願い申し上げます」
「……分かりました。
承知いたしましたと、父上に御奏上ください」
正直に言えば、この命令には不服だ。
『王宮内に居所を移し、儀式終了までいっさいの外出を禁ずる』
父上からのこのお達しは、事実上の軟禁を意味する。
生贄の儀式の遂行の邪魔をする可能性のある私は、儀式終了まで王宮に閉じ込めておくということ。
とすれば、儀式の前夜に私が神殿へと出向くことが困難になるということでもある。
だが、父上の御言葉を伝えにきただけのブランダル将軍にそれを示しても仕方がない。
それに、仮に私が不服を申し述べたとしても、自身の決定を他者に覆されることを何よりも嫌う父上のことだ。
私の願いなど、一蹴されてしまうに違いない。
ならば、ここはおとなしく承諾しておき、王宮からの脱出方法を練ったほうが面倒が少ない。
ただ、それも父上が私を軟禁されるおつもりの部屋が、王宮のどこに用意されるかによるのだが……。
「兄上? 今のお話ですと、明日から四日間は王宮に滞在なさるのですか?
それなら、この宮にいらしてください。
僕、兄上と一緒にしたいこと、たくさんあるんです!」
あ……。
「ねっ、よろしいでしょう? 母上もきっと喜ばれますよ。
将軍! 王宮内なら、どこでもいいんですよね?」
「左様ですな。私が陛下より御言葉を賜った時には、お部屋の御用意についての具体的な命は下されておりませんでした。
一度、陛下のもとに立ち戻りまして、お尋ねしてみましょう」
「はいっ。よろしくお願いします!」
将軍の請け負いの言葉に元気な声をかけるカルスの横で、私はこの意外な成り行きに僅かな光明を見いだしていた。
もしもカルスの希望が聞き入れられ、私の軟禁先がこの王妃宮になれば、儀式の前夜に脱出できる可能性は格段に上がる。
ここは、私が幼少時を過ごした、勝手知ったる宮なのだから。
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