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それでも、好きだった。
どれほど疎ましそうに見られても、美しい母のことが、私はとても好きだったのだ。
我が国よりも歴史の古い隣国の王女だった母。
戦の協定により政略結婚で父に嫁ぎ、ただ祖国のためだけに私を産んだ母。
そんな母が、母を大切にせず、次々と愛妾を作る父の子である私を、愛してくれるはずもなかったのに。
……ふっ、情けない。
歴戦の強者だ、国の英雄だと称えられている第一王子が、幼い頃の思い出に心を痛め、こうして眠れぬ夜を過ごしているなどと、誰が知るだろう。
本当の私は、こんなにも弱い。
「こんな私を知ったら、カルスは幻滅するだろうな」
あの子にだけは、知られたくない。それに、ミネア様にも。
国内の有力者の娘の中から母の女官に選ばれた身であるのに、父に無理強いされてカルスを身ごもり、他の女官たちからずいぶんと嫌がらせを受けたと聞いている。
婚約者も、居たのだとも。
それなのに、父を恨むことなく、私にも愛情を注いでくださっているあの方にこそ、失望されたくない。
側妃時代に、母に優しくされたのが嬉しかったからなのだとミネア様はおっしゃっておられたが、この点に関しては、本当なのかと疑ってしまう。
私には、あれほどに冷たい母だったのだから。
だが、ミネア様には違ったのだろうか。
傲慢で独善的な父の影で、女性同士、通い合うものがあったのだろうか。
私には、柔らかな眼差しひとつ、与えられなかったのに。
……あぁ、駄目だな。
こんな仮定の話で人を羨んでしまう情けない男が、私だ。
情けなさすぎて、さらに眠れそうにない。
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