7 愛情と思慕の狭間で

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父上は『三日後には王太子妃と側妃(そくひ)を決定せよ』と、おっしゃられた。 三日後とは、生贄の儀式の夜。すなわち、もうその時には私は王宮にはいない。 ならば、ここで口先だけでも御命令に頷いておけば良い。 そうして、従順なふりをして父上を(たばか)り、二日後に何食わぬ顔で王宮を脱出すれば良いのだ。 だが、妃を決めるという大事(だいじ)を、その場限りのいい加減な気持ちで承諾することは、私にはできない。 父上が見繕ったという女人(にょにん)たちも、きっとそれなりの身分の者たちであるのだろうから。 せめて、その女人たちを妃候補から外してやらなければ。 「父上っ」 『下がれ』と突き放されたが、しつこく食い下がった。 怒号が轟こうが、構わぬ。 「しつこいぞ。王太子よ。 いつまでも独り身でふらふらしておる、そなたが悪いのだ」 淡々とした口調。しかし、何者の抗いも許さぬ、揺るぎない意志が込められた野太い声が、広間に響いていく。 「(われ)は、王太子としてのそなたに命じたのだ。 王の(めい)を、軽々しく覆せるなどと思うな」 灰色の髪が縁取る、狷介(けんかい)さが窺える相貌(そうぼう)。 その中にあって、唯一私と同じ色を持つ黒瞳が、玉座から私を鋭く見据えてきた。 「もう既に王妃宮に三名の娘を呼び立てておる。観念して、国のため、妻を娶れ」
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