192人が本棚に入れています
本棚に追加
父上は『三日後には王太子妃と側妃を決定せよ』と、おっしゃられた。
三日後とは、生贄の儀式の夜。すなわち、もうその時には私は王宮にはいない。
ならば、ここで口先だけでも御命令に頷いておけば良い。
そうして、従順なふりをして父上を謀り、二日後に何食わぬ顔で王宮を脱出すれば良いのだ。
だが、妃を決めるという大事を、その場限りのいい加減な気持ちで承諾することは、私にはできない。
父上が見繕ったという女人たちも、きっとそれなりの身分の者たちであるのだろうから。
せめて、その女人たちを妃候補から外してやらなければ。
「父上っ」
『下がれ』と突き放されたが、しつこく食い下がった。
怒号が轟こうが、構わぬ。
「しつこいぞ。王太子よ。
いつまでも独り身でふらふらしておる、そなたが悪いのだ」
淡々とした口調。しかし、何者の抗いも許さぬ、揺るぎない意志が込められた野太い声が、広間に響いていく。
「我は、王太子としてのそなたに命じたのだ。
王の命を、軽々しく覆せるなどと思うな」
灰色の髪が縁取る、狷介さが窺える相貌。
その中にあって、唯一私と同じ色を持つ黒瞳が、玉座から私を鋭く見据えてきた。
「もう既に王妃宮に三名の娘を呼び立てておる。観念して、国のため、妻を娶れ」
最初のコメントを投稿しよう!