7 愛情と思慕の狭間で

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* 「――兄上? お疲れ様でした。あの、大丈夫ですか?」 「ん? あぁ。あ、いや……少々、気疲れしたようだ。 身体は疲れていないが、しばし休憩することにしよう」 気遣いを込めた視線で見上げてくるカルスに、いったんは『大丈夫だ』と返しかけたが、思い直して正直に気持ちを吐露することにした。 カルスがこのようなことを尋ねてくるということは、この子にも気づかれているのだ。私の疲弊が。 それほどに、私は表情に出してしまっているのだろう。 自室に引き上げてきた安心感から大きく溜め息をつき、ロキが差し出してきた冷水に口をつけた。 キンと冷えた杯に入ったハーブ水が胃に染み込み、気持ちを落ち着けてくれる。 「あー、冷たくて美味しい。 ――それにしても兄上。昨日からずっと宴続きで、本当に疲れちゃいますね」 隣で同じように椅子に掛け、上機嫌でハーブ水を飲んでいたはずのカルスが苦笑しながら同意を求めてくるものだから、同じく苦笑を返した。 「あぁ。まさか、このように立て続けに予定が組まれているとはな」 徐々に気持ちが落ち着いてきたものの、カルスの言う通り、気疲れからくる疲弊は抜けてくれない。 「シュギル様。この後は、王妃様主催の祭祀とお茶会の御予定でございます。 尚、このお茶会で本日の御予定は全て終了となりますが、シュギル様のお相手の姫様方、皆様がお揃いになられるとのことです。 お疲れとは存じますが、こちらにお召し替えくださいませ」 「……分かった」 祭祀のための着替えを手にしているロキに頷き、立ち上がった。 父上との謁見から二日。 否応(いやおう)もなく、妃候補の三人の女人(にょにん)たちとの顔合わせと称した宴が、ずっと続いている。 疲れた。 女人を相手に会話するという、それだけのことが、これほど精神的疲弊をともなうとは……。 四方を敵の大軍に囲まれた戦場に身を置いている時のほうが、何倍も気が楽だ。
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