1 生贄の少女

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手にした酒杯の葡萄酒に月が映っているのを眺め、前髪を撫で上げた風に、思いつきを投げかけてみる。 「ふぅ……どうせ眠れないなら、散歩でもするか」 窓際でじめじめと酒を飲んでいるよりは、ずっと良い。 思い立ってみれば、身体はすぐに動いた。 窓に手をかけ、足を振り出して地面に降り立つ。 そのまま、夜風が運んでくる花の香りに向かって歩き出した。 「――おや、シュギル様ではございませんか。 このような夜更けに、いかがなさいました?」 夜空の星を堪能しながら気分に任せてさまよい歩いているうちに辿りついた神殿。 月光を浴びるその柱に身をもたれかけさせたところで、聞き覚えのある、しわがれた声が闇の中から届いてきた。 「ザライアか。お前こそ、こんな時間に何をしている?」 月を背にして立つ、痩せぎすの黒衣の男に、同じ問いを返す。 足元までを隠すマントに身を包み、フードを目深にかぶった見慣れた姿は、創造神を祀る神殿の神官、ザライアだった。
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