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「おやおや、問いかけに問いかけで返されてしまいましたか」
突風でも吹けば聞き逃してしまいそうなほどに、しわがれた声。
「シュギル様は、観月の散歩中であられるのでしょうか」
それを喉を鳴らすように震わせ、ザライアが静かに近づいてきた。
「私どもは、明日の祭祀の準備をしておるのですよ」
「生贄の儀式か」
「左様でございます」
「祭司長が自ら準備に携わっているのか?」
ザライアは、この神殿の最高位の神官である。
先代の王が即位した時からこの任に就いていると聞いているが、本当だろうか。
「生贄の儀式は、我が国にとって大事な儀式ですから。
まぁ、私はここで指図しているだけのお気楽な身分ですがね」
常に深くフードを被り、しわがれた声で話す、年齢不詳の老人。
王家の薬師も兼ねており、私やカルスも幼い頃にはこのザライアが調合した薬に世話になったものだ。
ザライアの指揮のもと、下位の神官たちが忙しなく動き回り、儀式のための祭壇が整えられていくのを見守りながら、気になっていたことを尋ねてみる。
「ザライア。多頭竜は、今回、顕現なされてくださるだろうか」
創造神の神使、多頭竜。生贄を捧げ、儀式を開始しても、いつでも多頭竜がその姿を現すとは限らない。
神の眷属に連なる者らしく、その性は気まぐれなのだ。
「それは、儀式を始めてみなければ分かりかねます……と、申し上げたいところではございますが、今回に限っては大丈夫でしょうと、お伝えしておきましょうか」
「……ほう。随分な自信だが。
それは、今回手に入れた生贄が理由か?
しかし、その者をまだお前も見てはいないだろう? 軍が凱旋するのは、明朝なのだから」
「ふふふっ……自信の裏づけについては、秘密です。
いかにシュギル様といえど、お話するわけにはまいりません」
かろうじて見える口元に、笑いが浮かんだ。
そこに刻まれたしわが深くなったと同時に、妖しい印象をも与えてくる笑み。
何故だろう。
周囲の闇が、濃くなったような錯覚に陥った。
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