1 生贄の少女

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月光から外れた位置に立つ、暗闇を取り込んだかのような黒ずくめの男から、もうひと言、届いてきた。 「私が申し上げたことの真偽については、儀式が始まれば、すぐに見てとれますよ」 「なるほど。それでは、儀式の開始までおとなしく待つとするか」 脇に立つ黒衣の老人の謎めいた言葉には、切り返しも問いかけも必要ない。 建国の神話に登場する創造神。 その神を祀る神殿は、国王といえど、手は出せない。 不可侵の聖域なのだ。 そこにおいて、長年に渡って絶対的な権威を持ち、祭司長として辣腕を振るってきたこの黒衣の老人には、ただ、「諾」と返せば良い。 その儀式も、次に陽が沈む頃には、すぐに始まるのだから。 「ところで、シュギル様。 もう夜半を過ぎて随分と経ちますが、このままこちらで祭祀の支度におつき合いいただけるのですか?」 「そうだな。そうさせてもらおうか。 実はなかなか寝つけずに、気晴らしに外に出てきたのだ」 「左様ですか。それでは、こちらへどうぞ。 供物に聖言を与えてやっていただけますれば、幸いに存じます」 「分かった」 『こちらへ』とザライアにいざなわれ、神殿の上階にある祭壇室に入った。 どうせ、もうそれほど眠れはしない。供物に聖言を与えた後、夜明けを待って宮に戻るとしよう。 「――――(あめ)(つつし)み、(こうべ)を垂れて奉らん――奉らん。 ……ふぅ。これで全部か。ザライアめ、存外に人使いが荒い。ふふっ」 予想していたよりも割り当てられた供物が多かったが、まぁ良い気晴らしになった。 ザライアのことだから、それを見越していたのやもしれんが。 「……ん? あれは?」 祭壇室の円窓の向こうで、何かが煌めいたのが、目に入った。 「……っ!」 気になり、下を覗き込んだ自分の視界に飛び込んできたモノに、目を見張る。 きらりと、月光をはじくように輝いている“ 白 ”。 「……神の、使い……?」 そこには、多頭竜と同じ白銀色を身に纏う“ 何か ”が、居た。
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