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「……白、だ」
あぁ、私は何を当たり前のことを口に出しているのだろう。
だが、他に言葉が見つからないのも、本当なのだ。
光輝く“ 白 ”。
多頭竜の鱗と同じ輝きを放つ、白銀色。
それが、目の前に居た。
そして、何故か、こちらを見上げている。
「……少女、か……?」
神々しい光を放つその者は、幻でも何でもない。
生きている人間なのだと、ようやく理解できた。
しかも、ごくごく若い、まだ少女といっても差し支えない年齢なのだとも。
理解した途端。その者しか見えていなかった私の視界に、少女を護るように取り囲んでいる兵士たちの姿も目に入ってくる。
私が光を見たと感じたのは、数人の兵士たちに担がれた輿から少女が地に降り立った瞬間だったのだろう。
腰から更に下、膝までを覆う、うねりを帯びた白金髪。
そこから伸びた細い手足は松明に照らされ、夜目にも鮮やかな、透き通るように真っ白な肌。
「美しい……」
気づけば、かすれた声が漏れていた。
その言葉を発するまで、呼吸すら忘れていたかのようだ。
目が、離せない。
分かっている。
この者は、駄目だ。ちゃんと分かっている。
だが、輿を護っていた兵士に促され、少女が神殿に足を踏み入れ始めるのを見とめた瞬間、はじけるように祭壇室を飛び出していた。
身体が動くのを、止められない。
あの少女が多頭竜への生贄なのだということを、王子である私は既に理解し、納得しなければいけないというのに――
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