1 生贄の少女

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「……白、だ」 あぁ、私は何を当たり前のことを口に出しているのだろう。 だが、他に言葉が見つからないのも、本当なのだ。 光輝く“ 白 ”。 多頭竜の鱗と同じ輝きを放つ、白銀色。 それが、目の前に居た。 そして、何故か、こちらを見上げている。 「……少女、か……?」 神々しい光を放つその者は、幻でも何でもない。 生きている人間なのだと、ようやく理解できた。 しかも、ごくごく若い、まだ少女といっても差し支えない年齢なのだとも。 理解した途端。その者しか見えていなかった私の視界に、少女を護るように取り囲んでいる兵士たちの姿も目に入ってくる。 私が光を見たと感じたのは、数人の兵士たちに担がれた輿(こし)から少女が地に降り立った瞬間だったのだろう。 腰から更に下、膝までを覆う、うねりを帯びた白金髪。 そこから伸びた細い手足は松明(たいまつ)に照らされ、夜目にも鮮やかな、透き通るように真っ白な肌。 「美しい……」 気づけば、かすれた声が漏れていた。 その言葉を発するまで、呼吸すら忘れていたかのようだ。 目が、離せない。 分かっている。 この者は、駄目だ。ちゃんと分かっている。 だが、輿を護っていた兵士に促され、少女が神殿に足を踏み入れ始めるのを見とめた瞬間、はじけるように祭壇室を飛び出していた。 身体が動くのを、止められない。 あの少女が多頭竜への生贄なのだということを、王子である私は既に理解し、納得しなければいけないというのに――
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