2 王子の葛藤

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「――シュギル様? このような場所で、いかがなさいました?」 「……ん……あぁ、ロキか」 間近でかけられた、聞き覚えのありすぎる声。 様子を窺うようなソレが耳に届き、自分がしばし寝入ってしまっていたことを知った。 この場所で。 「いつから、庭におられたのです? もしや、ひと晩中では……」 「いや、心配は無用だ。散歩のついでに、ほんのひと時、寝入っていただけなのだから」 顔に当たる朝の陽射しの眩しさに目を眇めつつも、すぐに覚醒した意識が、自分が今ここに居る理由を教えてくれる。 身体をもたれかけさせていたのは、王宮の一角。自分の宮に続く道脇の大木の根元だった。 あの時――――衝動のままに祭壇室を飛び出した自分だったが、下まで駆けおりた時には既に少女は神殿の奥深くにいざなわれており、間近でまみえることは叶わなかった。 ザライアの姿も消え、少女について何も尋ねることが出来ぬまま宮まで戻り、ここで夜明けの空に残る月を見上げているうちに、いつの間にか寝入っていたようだ。 寝所に戻る気にはなれなかった。 あの少女の全身を輝かせていた、月光の名残をここで眺めていたかったのだ。 神の贄となることが決まっている、あの『白の少女』の姿を脳裏に浮かべながら――
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