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「――兄上っ」
王宮に入った途端に聞こえてきた、明るい声。
「見てください。今日は僕も鎧を身につけて良いと、父上に許可をいただいたのですよ」
その声の持ち主が、駆け寄ってきた。
「どうですか?」と両手を広げ、鎧姿を披露してみせる弟王子は、満面の笑顔だ。
我が王家の紋章である竜の意匠をほどこし、翡翠玉(ひすいぎょく)を埋め込んだ鎧が、とても良く似合っている。
「ん、良く似合っているぞ。
そうしていると、そこそこの武人に見えるな」
「あっ、『そこそこ』だなんて酷いです。
せっかく、兄上の鎧と揃いになるように作らせたのに」
「あははっ。悪かった。しかし、本当に良く似合っている。
私の物と揃いだというのも、ひと目で気づいていたぞ」
思った通り、唇を尖らせて少し拗ねた様子を見せた可愛い弟の茶髪にポンと手を乗せて笑いかければ。
「兄上と揃いなのは、今は鎧だけですけど。そのうち剣の腕前も並び立てるようになってみせますからっ。
しっかり見ててくださいね!」と、真剣な顔つきで宣言された。
この子のこういうところが可愛らしい。
そして、ふと思いついた提案をしてみる。
「よし。その時が来たら、互いの鎧を交換し合うことにしないか?」
「えっ、ほんとですか?
僕、この青金石(ラピスラズリ)を埋め込んだ兄上の鎧が本当に憧れで……少しでも同じになりたくて、背伸びして揃いの意匠の鎧を作らせたんですよ。
僕、頑張ります。本当に本当に頑張って、早く兄上に追いつきますね!」
きらきらと輝く茶瞳にカルスの意気込みが込められ、「約束ですよ。必ず交換してくださいね」という念押しに、私の笑みも深くなる。
本当に可愛らしく、同時に眩しい存在だ。
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