epilogue 携えるは、ただひとつの愛

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* 「詠唱が始まった。陽が沈んだのか?」 ――夕刻。風に乗って切れ切れに運ばれてきた詠唱の声を聞き取り、窓の方角へと顔を向けた。 「はい。ちょうど今、沈んだところです。いよいよ、新年の儀式の始まりですね」 闇に閉ざされた視界ではあるが、私の脳裏には、灰色の衣を纏う下位の神官たちが詠唱する姿がはっきりと映っている。 「では、私たちも行くとしよう」 「はい」 朝からずっと祈りを捧げていた自身の祭壇室での祭祀を終え、立ち上がった。 今日は、一年の終わりの晦日(かいじつ)。 日没と同時に始まった『時の祭殿』の神官たちによる詠唱は、新年の祭祀の開始の合図。 『時の祭殿』に始まり、『月の祭殿』、『水の祭殿』、『大地の祭殿』と詠唱の波は引き継がれ、夜明け前に始まる『光の祭殿』の祭祀まで長い時間をかけて営まれていく。 その『光の祭殿』での祭祀で、ルリーシェと私が、巫覡(ふげき)として正式に披露される運びだ。
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