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将軍に会い、あの少女のことを尋ねなければと勢い込んでいた割には、カルスに先を越された形になったが、結果的にはこれで助かった。
「カルス様。カルス様は、多頭竜への生贄に、かなりご興味を持たれておられるようですな」
カルスの邪気のない明るい尋ねように、ブランダル将軍の表情が、柔らかく緩んでいる。
「はい! 『生贄になるために生まれてきたような者』とは、どのような見た目なのだろう。そして、将軍はどのようにしてその者を見つけたのだろうと、昨日からそればかり考えていて……。
今朝は、それで朝食に向かうのが遅れて、母上に叱られてしまいました」
「ははっ、それはいけませんなぁ。
しかし……そうですな。生贄の見た目に関しては、今宵の儀式をお待ちいただくほうが早いでしょう。直接、その目で御覧になられるが一番でございますよ。
ひと目、目にすれば、それで納得されることと思います故(ゆえ)」
「えー? 夜まで待たなければいけないのですか?」
興味津々な表情から一転、おおげさに天を仰いだカルスに、ブランダル将軍の豪快な笑い声が続いた。
それは、そうだろう。
『ひと目、目にすれば』、分かるのだ。
あの少女が、贄に選ばれた意味は。
「ただ、これだけは申し上げておきましょう。
かの者は、隣国においても、いずれ神に捧げられると決められていた者だったということです」
「……っ」
「生まれながらにそう決められ、『神の子』と呼ばれて育ったとか。
本人もそれを名誉なことと受け入れて、神の贄となれることを誇りに思っているのだと申しておりましたよ」
……何だと?
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