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――夜明け前。白み始めた空に、昨日と同じ、暁月が残っている。
夜の濃紫色に暁の橙色が薄く射し込み始めた天において、その月は、いまだその存在を見せつけるように白銀の輝きを放ち続けていた。
「昨日と同じ、か……」
昨日も、同じこの月を見上げていた。
ルリーシェを想いながら。
「いや、違う。全く別物だ」
今の自分に、昨日と同じところなど、ひと欠片も見当たらない
立場も戦歴も、民からの信頼も。
そして、かの少女への想いも。
たった1日で、全てが一変していた。
「――シュギル様、お時間でございます。お着替えをお持ちしました」
静かな空間に、ロキの声が淡々と響く。
感情を抑えていると分かるそれに、自然と口元が綻んだ。
「あぁ、悪いな。このような時刻に。手間をかける」
「……っ、何をおっしゃいます。これくらいのこと、側近として当たり前です。
ではまず、洗顔からどうぞ」
普段と変わらぬ冷静な表情と物言い。そして手際の良さ。
しかし、その中に垣間見える心の揺れに気づかぬ私ではない。
だが、素知らぬ顔で、ロキが用意した甕の水で顔を洗い、渡された蒸し布で身体を拭く。
口に出しても詮無いことだからだ。
こののち、私は父王の御前に向かい、沙汰を受ける。
崇高なる神使、多頭竜を手にかけた罪人として。
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