4 罪と咎と、償いと

2/25
188人が本棚に入れています
本棚に追加
/279ページ
――夜明け前。白み始めた空に、昨日と同じ、暁月(あかときづき)が残っている。 夜の濃紫色に暁の橙色が薄く射し込み始めた(そら)において、その月は、いまだその存在を見せつけるように白銀の輝きを放ち続けていた。 「昨日と同じ、か……」 昨日も、同じこの月を見上げていた。 ルリーシェを想いながら。 「いや、違う。全く別物だ」 今の自分に、昨日と同じところなど、ひと欠片も見当たらない 立場も戦歴も、民からの信頼も。 そして、かの少女への想いも。 たった1日で、全てが一変していた。 「――シュギル様、お時間でございます。お着替えをお持ちしました」 静かな空間に、ロキの声が淡々と響く。 感情を抑えていると分かるそれに、自然と口元が綻んだ。 「あぁ、悪いな。このような時刻に。手間をかける」 「……っ、何をおっしゃいます。これくらいのこと、側近として当たり前です。 ではまず、洗顔からどうぞ」 普段と変わらぬ冷静な表情と物言い。そして手際の良さ。 しかし、その中に垣間見える心の揺れに気づかぬ私ではない。 だが、素知らぬ顔で、ロキが用意した(かめ)の水で顔を洗い、渡された蒸し布で身体を拭く。 口に出しても詮無いことだからだ。 こののち、私は父王の御前に向かい、沙汰を受ける。 崇高なる神使、多頭竜を手にかけた罪人(つみびと)として。
/279ページ

最初のコメントを投稿しよう!