1 生贄の少女

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「あっ、兄上の髪にも花びらがついてますよ。ほらっ」 ふと何かに気づいたような顔をしたカルスが手を伸ばし、私の髪から花びらを取って見せてきた。 「あぁ、本当だ。お前の髪についた物と同じようだな。 ずいぶん長くここに居たから、その間についたんだろう」 「あ、こちら側にもついてる。兄上の髪は美しい黒だから、白い花びらが良く似合いますね」 「何をおかしなことを。女性でもあるまいに」 「本当のことですよ。僕もこんな茶色い髪なんかじゃなく、兄上みたいな綺麗な黒髪に生まれたかったなぁ」 「またその話か。私の髪など、お前が言うほど綺麗でもないと思うのだが」 むしろ、カルスの髪のほうが柔らかく、手触りも良い。 「何をおっしゃってるんですか。背中まで真っ直ぐに伸びた、流れるような黒髪に、闇色の黒瞳。 白き竜にちなんだ『ギル』をその名に持っているところまで建国の英雄王と同じ兄上は、僕の憧れそのものなんですよ」 「ギルトゥカス英雄王か。それなら、私も憧れているぞ。 私などは、たまたま同じ黒髪に生まれついただけだが。王家の者として、かの英雄王のように国の繁栄のために力を尽くしていきたいと思っている」 「うわぁ、兄上は謙遜されすぎです。 14の初陣から、戦に出れば負けなし。 その剣撃は凄まじく、弓を持たせれば歴戦の将軍たちと並ぶ強弓(ごうきゅう)ぶりで、白き竜になぞらえて『黒き闘竜』と(ふた)()がついている御方が、何をおっしゃっておられるのですか」 「いつの間にか、そんな大層な呼び名がつけられているようだな。私が自ら名乗ったわけではないのだが」 「遠き異国の国々にも轟いているとか。兄上は本当にすごい御方です」 両の手を握りしめ、力説するカルスに苦笑を返せば、さらに熱く見つめられてしまう。 しかし、この子から向けられる、この敬慕の眼差しには応えたいものだ。
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