1 生贄の少女

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「あー、僕も早く戦場に出たいです。 何故、僕には父上から出陣のお許しが出ないのでしょうか。兄上は14で初陣なされたというのに」 「お前は第二王子であるし、18になるその時を待っておられるのやもしれないな」 確かに私は14で戦場に出たが、あの時はその前の敗戦で将軍たちに死傷者が出ていて人材不足だったのだから、仕方なかったのだ。 背後の大木にもたれ、嘆息を吐くカルスをなだめるようにその頭を撫でてやる。 「次の戦では、私の隣に並んで初陣を飾っているかもしれないぞ。それまでに研鑽を積んでおくことだ」 笑いかければ、その背がぴんと伸びた。 「はいっ! 剣も弓も、頑張って稽古します! ――――あ、ところで兄上。凱旋軍が新しい生贄を連れ帰ってくるのだと聞きましたが」 「あぁ、私も今朝報告を受けた」 「兄上は、その者を御覧になられていないのですか?」 「私が軍を離れた後に、捕虜の中から見つけたらしい。 だから、その者の姿は目にしていないな」 「そうなのですか。そういえば、兄上はいつも勝利をおさめた後、軍よりひと足早く王都に戻ってこられますが、何故ですか? 軍の勝利は、兄上の戦功ですのに」 「カルス。勝利というものは、私ひとりの力で得られるものではないぞ。 兵士ひとりひとりの力と、その兵士たちを普段から鍛えあげてくれている将軍たちのおかげだ。 だから、凱旋軍を率いて帰ってくるのは、将軍たちの仕事で良いのだよ」 「そういうものなんですか?」 納得しきれていないのか、怪訝そうに首を傾げるカルスに「私は、それで良いと思っている」とつけ加えた。 まぁ、本心の半分は、凱旋軍の中心で英雄然と仰々しく行進するのが、どうにも嫌なだけなのだが。 これは、わざわざ口にすることではないからな。
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