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しかし、戦場に出たことがないカルスには分からなくて当たり前だろう。
「お前も軍を率いてみれば分かるよ」
頼る者が居なかった私とは違う。
その時には、私が傍で見守り、教えていけば良いのだ。
「そのためには、剣も弓も精進せねばな。期待しているぞ」
「はいっ! 僕、頑張りま……」
「あ、あと、数学もな」
「……っ……そ、それも頑張ります」
ついでにつけ加えたひと言に、カルスの顔が、途端に情けない表情に変わった。
「兄上、たまに意地悪です」
「あははっ、悪い。しかし、どれも私とともに励めば良い」
「はいっ! やっぱり兄上はお優しいなぁ。
――――あ、そういえば生贄の話が途中でした。
兄上。僕の聞いた話では、その者は、まるで生贄になるために生まれてきたかのような容姿をしているとか」
「あぁ、そのようだな。ブランダル将軍からの報告にも『神の供物にふさわしい者を見つけた』とあった」
「どのような者なのでしょうか。
僕、生贄の儀式ではいつも多頭竜ばかり見ているのですけど、その者にはすごく興味が湧いてます」
「確かに、興味深くはある。だが、肝心なのは、その者を多頭竜が気に入ってくれるか、だからな」
多頭竜――――白銀の鱗に覆われた、九つ首の竜神。
そして、創造神の神使。
あの気高い存在に供物と認められる者であるかが、一番気にかかる点だ。
が、カルス同様、内心では私もかなり興味を引かれてはいた。
厳格で堅物なブランダル将軍が興奮気味に送ってきた書状なのだ。反応しないわけがない。
『神の供物にふさわしい』とは、どのような者なのだろう――?
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