1 生贄の少女

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* 「今宵は、降るような星月夜だな」 一日の汗を湯浴(ゆあ)みで落とし、さっぱりとした肌に薄物だけを腰に巻きつけ、テラスに出た。 心地よい夜風に身をさらし、湯で火照った身体をその風でゆっくりと鎮めていく。 時折、風向きが変わり、湯浴みのためにおろした髪が背中から舞い上がるが、それもまた心地よい。 さて、カルスの奴、意気込みはあるのだが、すぐに音を上げるのを何とかしてやらないと……。 「シュギル様、髪をお梳きいたしましょう」 「あぁ、悪いな。しかし、これはお前の仕事ではないだろう? ロキ」 テラス沿いに(しつら)えた石の椅子にもたれ、次にカルスにつけてやる稽古について考えていると、側近のロキが横に立ち、まだ水分を含んだ髪に手を伸ばしてきた。 「いえ、これも側近の務めと心得ております。 何せ、シュギル様は、宮に専属の女官を置いておられません(ゆえ)、仕方ございません」 「ん? 今のは嫌みか? 私は、別に髪など整えなくとも構わないんだぞ? どうせ、普段は後ろで束ねているのだし。 それに、女官は何かと面倒を起こすからな」 もう一度髪を拭き、丁寧に梳き出したロキの顔を仰ぎ見、軽く眉間にしわを寄せて小さな溜め息をついた。 「それも仕方ございませんねぇ。ただ湯浴みをなさったというだけで、これほどの色香を纏われてしまわれるシュギル様なのですから。 シュギル様の寵を争って揉め事を起こす女官が絶えないのも、納得です」 「何が色香だ。馬鹿馬鹿しい。 だが、お前もそれが煩わしいから、宮に女官を置かないことに同意したのだろう?」 「えぇ、毎回調停するのも面倒になってきましたからね。 ですが、女官はともかく、そろそろ本格的にお妃選びを始めていただかねばなりませんが」 「それこそ、面倒くさい」 今度こそ、盛大な溜め息をついた。 今まで、どんな女性にも何の感情も湧いたことがないのだ。 妃を娶るなど、考えられない。
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