第1話 呼声

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聴こえない音が聞こえるという一種の第六感(第5.5感?)は昔からあって、それを狙われてあいつは取り憑いたのか、それとも昔からあいつ自身はわたしの首の後ろにいたのか、とよく思うことがある。 目の前の灰色がかった髪の青年に、そういうのがありそうな気はしてもそんな気配は微塵も感じたことがない。 村泉ミラルは不思議な子だった。 180cm以上の長駆に長い手足。北帝大のキャンパスの木陰でいつも本を読んでいて、誰とつるむでもなくよく一人でいる。 彼が意識してそうしているのか或いは同期が避けているのかは分からない。もしかすると、わたしと同じように同期であるのに2つも年下であることがそうしているか拍車を掛けているかも知れない。 だが、彼からは何かが "薫る"のである。 源氏物語の薫から、不義の子であることを誇示するような薫りが女を引き付けたように、彼には人を引き付けるような、避けさせるような何かが薫るのだ。 早熟ながらとても端正で、細い線で迷いなく描かれたような顔と容姿、彩度を取り払った髪と琥珀色の目は誰もが魅力的と思う男のはずだ。 だが、その広い背中の下には何かがおんぶされて、隠れているよう。 すらりとした首の後は、削れば鏡となって空を映しそうな、毛が生えれば獣と見まごうかのように野生的で猟奇的な雰囲気がある。 だからわたしは、彼を知りたいとよく思うのだろうか。 いや、思ったのだろうか。
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