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「…宮。谷宮。」
「ああごめん、考え事してた」
ミラルは不思議な目で見ていた。
そしてテーブルの上のウサギは、そのつぶらな目を細めてニヤニヤしているように見えた。
「俺は思ってるんだ。その声に従って、自分に与えられた使命を果たすべきなのだろうかと」
「その声の主が、何をしようとしているかも分からないのに? あなたはそんな詐欺めいた話に引っかかる人には見えないけど」
「いや、分かるんだ。これは俺に与えられた宿命なんだと。ずっと、自分がこの歪んだ世界の中で何ができるのだろうかと考えていた。そのために2年飛び級までして北帝大に入った。間違いなくだれかが見ていてくれていたんだ…」
「自分の意味を探してるほど、宗教や危険思想に嵌るって思う。あなたはそんな人間だっけ」
「谷宮。お前ならわかってくれると思ってる。何かを探してるんだろ…?お前は、俺と同じだ」
琥珀色の、白目に比べ小さな瞳が、白い昼の雲越しの太陽の光をわたしの目へと跳ね返した。
確かに、このサッポロの街が美しいと感じたことはない。
赤煉瓦とサイネージ広告で固められ、温室のようなはめ殺しの硬質ガラスのドームで武装したエゴの塊だ。だけど、そこには確かに人間の人間らしい意思がある。
だが、それ以外も歪んで見えるほど、彼の見ている世界は絶望的なのだろうか。
確かに、この目の前の青年は、獣のように美しいのに。
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