第1話 呼声

11/17
前へ
/19ページ
次へ
---- 真っ暗な空間で、子どもの泣き叫ぶ音だけが響いている。 わたしの声だろうか。いや、男の子の声だ。 風も吹かない闇の中で、ただ身を貫くような寒さが襲ってきている。 その中で小さな右手が闇を弄っている。左手は何かが固く握られている。 ああ、そんな声で泣かないで。 わたしまで悲しくなってしまう。 『サタバクさん!サタバクさ… 』 『なんて血だ… 凍りつくほど流れてる』 『まずこの鐘っこを降ろすぞ!この子、よう泣いてるべ』 グラリと空間が揺れる。子どもは寺の釣鐘に閉じ込められているようである。 『凍ってる、この人の手から離れねえぞ』 『早くしろ、こっちの手が凍りそうだ』 『せ、え、の、ヨッコラセ!』 ゆっくりと地に降ろされた感覚がする。 松明の灯りが闇に差し込み、わたしを目に宿した子どもは冬の夜空の下に助け出された。 『村泉さんヨォ… 生きてるよなコレ』 『バカ言え、あんだけ銃弾を浴びたんだ、もうこの世のものじゃねえよ』 『死んでもまだ釣鐘に入ったチビっこ担いで立ってるぞ。なんて親父や...』 寒空に四人の男の声と、子どもの泣き声が虚しく響く。 灰色の髪をした男は、血に固まった琥珀のような目を見開いて絶命していた。     
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加