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真っ暗な空間で、子どもの泣き叫ぶ音だけが響いている。
わたしの声だろうか。いや、男の子の声だ。
風も吹かない闇の中で、ただ身を貫くような寒さが襲ってきている。
その中で小さな右手が闇を弄っている。左手は何かが固く握られている。
ああ、そんな声で泣かないで。
わたしまで悲しくなってしまう。
『サタバクさん!サタバクさ… 』
『なんて血だ… 凍りつくほど流れてる』
『まずこの鐘っこを降ろすぞ!この子、よう泣いてるべ』
グラリと空間が揺れる。子どもは寺の釣鐘に閉じ込められているようである。
『凍ってる、この人の手から離れねえぞ』
『早くしろ、こっちの手が凍りそうだ』
『せ、え、の、ヨッコラセ!』
ゆっくりと地に降ろされた感覚がする。
松明の灯りが闇に差し込み、わたしを目に宿した子どもは冬の夜空の下に助け出された。
『村泉さんヨォ… 生きてるよなコレ』
『バカ言え、あんだけ銃弾を浴びたんだ、もうこの世のものじゃねえよ』
『死んでもまだ釣鐘に入ったチビっこ担いで立ってるぞ。なんて親父や...』
寒空に四人の男の声と、子どもの泣き声が虚しく響く。
灰色の髪をした男は、血に固まった琥珀のような目を見開いて絶命していた。
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