0人が本棚に入れています
本棚に追加
その子どもは、左手にしっかりと黒いバンダナを握って離さなかった。
----
青い豆電球の明かりに照らされた部屋が、目の前に現れた。
ベッドのシーツは汗と涙でぐっしょりと濡れている。
夢…だったのか。それもまた、他人の記憶を。
『君も、死の匂いを嗅げるようになってきたのかな』
なんでわたしにこれを見せた。なんでこんなことを教えたの。
ベッドの上で、煤を被ったような灰色のウサギが跳ね回る。その尻尾はセッター犬のように長大なのが変なところである。
そのウサギが語りかけている。今の夢も、彼が読み取った記憶なのだ。
『おや?僕は君が彼のことを案じているんだなと思ってその秘密を見せたんだけどな』
左手に握り締められたバンダナ。今は右手首に結ばれ、上に腕時計まで締めて肌身離さずにいる。
それはおそらく、立ち往生したあの男のしていたもの。そして...
『そうなのだろうね。あのバンダナに染み付いた死の匂いは、彼の匂いとよく似ている。』
あの男はミラルの父。そしてあの子どもはミラルなのだ。
気がつくと、トゥイエカムイサラナと名乗るウサギは青年のような姿に変わり、ホットミルクを持ち出してきた。デスクのライトを点けると、そっとマグカップを差し出して回転椅子に足を組んで座る。
最初のコメントを投稿しよう!