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「キリト、ミラルが世界を歪んで見ているのはその過去に原因があるのだろうか。もし経験が人の視る世界を決定するなら、だけど」
トゥイエカムイサラナ、と呼ぶのは長ったらしくて好まない。
人間として、神尾キリトと呼んでほしい。以前このウサギはそう希望した。
『面白い質問だね。その理屈ならばもし酒で親を失ったなら、その子どもは酒を憎まなけりゃならないな』
「いや、これとそれとは違う気がするんだけど」
それはわたしの話である。父は失業した後、酒浸りとなり癌で亡くなった。
でも16歳になって成人してから、酒は友達と夜に話し付き合う時ぐらいではあるけど呑んでいる。
『そもそも何故彼の父親は殺されなければならなかったのだろうか。その場で射殺されるべき重罪人だったのか? それとも私闘だったのかもしれない。どちらにしろ親父なんらかの理由があって殺されたならば世界を恨むのはお門違いだ』
「もしそういうやつだったなら、これ以上法螺に付き合う理由はないのかもしれない...」
『そうでなかったら、付き合う気なのかい?』
「まさか」
寝汗の残りなのか、額から顎にかけて一筋流れた。
心を見透かされているせいか、キリトと正対して話すのは自分の本性を映す鏡に向き合ってる気分である。
その人間としての姿も、身長と髪型を除けばほとんどわたしとよく似ている。
褐色の短髪に灰色の瞳、丸い輪郭に低い鼻面。
切れ長で平らかな口の、わたしから見て左端(自分は右端)にはホクロ、優しくアーチを描いた眉。
わたしから見て左の耳には、自分と同じカワセミの羽のピアスがぶら下がっている。
身長はいつもより優位に立つためにわたしより高くなり、わたしの長髪に対し髪型はボブカット。癖が強そうなのはそっくりである。
要するにわたしのまんま男版な姿をしていて、かなり悪趣味なウサギである。
彼曰く、憑依する人間と同じ姿の方が動きやすいということらしい。やめてよ。
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