第1話 呼声

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2016年1月1日、マルヤマ大聖堂。 ユクコロカムイの祀られる祭壇で、カムイノミが行われた。 そこに、わたしは来ていた。 突然、祭祀官が奇声を発して倒れ、あたりに立っていた巫女や神官たちも次々と倒れていく。 その様子を見た群衆が逃げ出すという大騒ぎとなり、マルヤマ近辺は大混乱に陥った。 『セポ、大丈夫だ。慌てずトノトをいただいて帰ろう。』 いつの間にかわたしの左肩に、トゥイエカムイサラナは乗って宥めていた。 何が起きたのか、と聞いても、長い耳のある頭を横に振るだけだった。 イナウの並び立つ祭壇に登って、幾人かいる震えて立っている巫女にお願いしてトノトを注いでもらい、首の後ろへ戻ったわたしのトゥレンペに "おすそ分けする礼” をして飲み、礼をして祭壇を降りた。 だがわたし以外誰もいないと思っていた聖堂の中で、虚空を見上げてミラルが立っていた。 「オキ…クルミ……?」 そう呟いて、呆然とした顔でわたしを見た。 もう二度と見ることはなくなった、その目をわたしは忘れることができない。 ---- 1945年、光文20年 9月2日。 東京湾の海上、戦艦ミズーリの甲板で、重光マモル外務大臣と梅津ヨシジロウ陸軍参謀総長が降伏文書に調印をした。 同じ頃、B29爆撃機およそ600機余が沖縄、サイパン、グアムを出発し、総ての軍事力を失った日本の国土へ向けて出発していた。 度重なる日々、度重なる時々に、各地で炎の槍が降り注ぎ、わずか9日間で本州、四国、九州の全土は焦土となり、アメリカの施政下に入ることとなったのだ。 当時は亡きローズヴェルト大統領の遺言「イエローイグジット作戦」、これにより「日本民族」はこれ以降歴史から姿を消した、と言われている。 ----
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