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「オキクルミ?」
北24条、わたしと村泉ミラルの居の近くに建つ喫茶店で、彼の口から思いがけぬ単語を聞いた。
オキクルミ、またの名をアイヌラックル、即ち「人間に近い神」。
知里ユキエのユカラ集ではオキキリムイと訳されて、その伝説は無限に近いほどあると言われる、アイヌの英雄。
その強さは神・魔物・人の間を問わず語り継がれ、憧れられ、同時に畏れられた。
だが北加伊道王宮に仕える神官によれば、人間を救済に導いた大鹿の霊、ユッコルカムイをカムイモシリの神々に呼応して討伐し、その強さをもって人間を堕落させた邪神である、と云われている。
また一説によればオキクルミは日本帝国人であり、アイヌを崩壊させるために遣わされた者だとも云われている。
王国が誕生して以来、その神は忌み嫌われる対象となりつつある。
その理由は、建国の父コロイフキがユクコロカムイ、即ち「鹿を恵み、護る神」を崇拝しその啓示を受け取る審神者であるからである。さっき述べた神官の伝承もそのような背景があってのことだろう。
「そいつはそう名乗っていた。天窓から差し込む朝日を背に、小さな鳥が屋根に立っていたんだ」
「鳥?」
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