壱ノ巻

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いくらか問診や診察をし、処方をする。 「・・・よし、取り敢えずは回復したとみなして大丈夫でしょう。けれど、今回の病の原因は過労による疲労とストレスでございます。無理だけはなさらないようにお願い致します。」 「ああ・・・分かった。」 この病にかかる前のことを聞いた後であったため、思わず口から言葉が飛び出てしまう。 アヤカシ様になんてことを、と思うが、患者さんの再発を防止するのも薬師の役目であると思い、打首覚悟で進言する。 今まで会ったアヤカシ様が全員優しいのも理由の一つとして挙げられるかもしれない。 実際のところ、私はアヤカシ様のご容赦に縋っているだけなのだ。 「あー、君。お名前は?」 「小鈴と申します。14歳です。」 「わー・・・そんな子供まで連れ去ってきたのか・・・。有難いやら、始末書が怖いやら・・・。」 そう言うと、コウ様は、フッと表情を消して私に詰め寄った。 「・・・それで、いつまで血を垂れ流しておく訳だ?見てるこちらまで痛くなってくるぞ。」 あ。 今更のように頬が痛みを訴えてくる。 コウ様が起きたことに気を取られるあまり、自分のことを忘れていた。 「そ、そうでしたね。失念しておりました。では、御前を失礼致します。」 コウ様の前を失礼して、手当をしようとしたのだが。 「あ、ここでしていくといい。どうせ、今まで看病してくれていたんだろう?」 確かにそうなのだが。 気を失っているのであれば、アヤカシ様も人間も変わらなかったのだが、目を覚ましたのなら、そうはいかない。 「で、ですが・・・。」 「ふむ・・・では、命令としておこうか。人の子、小鈴よ。この部屋で傷の手当をせよ。」 「・・・承知しました。」 命令と言われると逆らえない。 こうして、私はコウ様の御前で、自分の手当をすることとなってしまった。 ・・・とても、緊張した。
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