壱ノ巻

28/36

620人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
俺を先頭に、シン、殿にケイの順で通路を走り、コウのいる部屋へと向かう。 暗い通路を抜けた先、開いていた扉から部屋の中へと飛び込んだ。 「コウ!」 そこには。 「よう。心配かけたな。」 柔らかな陽光に包まれ、布団の上で上体を起こし、朗らかな笑みを浮かべるコウがいた。 取り敢えずは大丈夫そうなその様子を見て、安堵したのだろうケイが、へなへなと座り込んでしまう。 それを見たコウは苦笑いを浮かべた。 「心配かけたなぁ。すまん。」 「・・・本当だよ。心配したんだから・・・。」 「いやあ、すまん。」 静かな部屋で、二人の応酬が続く。 「本当に心配したんだからね。わざわざ人間に頼んでまで医師とか薬師とか集めてさぁ。・・・どいつもこいつも役に立たなかったけど。」 「・・・そうなのか?俺はあの女の子に起こしてもらったけど・・・。」 「ああ、その子は小鈴って言って、俺が連れてきて、唯一コウを助けようと動いた人間だよ。」 「そうだったのか。・・・ありがとうな。皆。」 コウは少し考える素振りを見せた後、いつもの様に朗らかに笑って見せた。 「あれ、そういや小鈴は?部屋には居ないようだが・・・。」 俺がそう言うと、全員が部屋を見回す。 小鈴の薬棚と風呂敷包みが置いてある以外は、端に沢山の書物が置かれているだけの不思議な空間。 「あれ?いないね。あの子、どうしたんだろう?」 ケイがそう言うと、後ろで控えていた女官が事も無げに言い放った。 「あの人間なら・・・下級兵たちが牢に運びましたよ。」 「「「「は?」」」」 「ええ、確か危険因子を幹部様のお近くにいさせる訳にはいかない、と。」 呆気に取られた。 まさか、あの人間たちの言うことがここまで広がっていたとは。 そして、騙される奴がここまで多いとは。 暗殺なんて、そんなことは出来ない。 何故ならば俺たち幹部は秘密の儀を行うことで、不死の身になっているからだ。 そして、子を成し、その子が成長したとき、秘密の儀を後世に託し、死ぬのだから。 病や怪我をすることはあれど、死ぬということはない。 それは幹部と総統との秘密で、知らないのは当たり前だった。 それに、あの小鈴が暗殺なんてするわけがない。 ・・・あれ?なんで俺はここまで小鈴を評価してるんだ?
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

620人が本棚に入れています
本棚に追加