壱ノ巻

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声がして、少しして、バタバタと数人が急いで廊下を走るような音が響く。 どこか反響するような響き方なので、ここはきっと狭いところなのだろうと予想がついた。 「おい!この娘を出せ!」 「し、しかし、幹部様!この娘は筆頭幹部様を暗殺しようとしたとの情報が・・・!」 「黙れ!お前らの耳は節穴か!?筆頭幹部を目覚めさせたのはこの娘だ!」 「で、ですが・・・。」 「ああ、もう、いい!鍵を出せ!」 「そ、それは・・・。」 「ちっ・・・!」 どうやら、揉めているようだ。 「あの・・・。」 「罪人は黙れ!」 「だから、この娘は罪人じゃないと・・・!」 「ですが・・・!」 ああ、こじれるばかり・・・。 「あの、私は大丈夫なのですが、患者様はどうなっていらっしゃるでしょうか?薬も煎じておりませんし、問診だけでは・・・。」 目覚めたからと言って安心してはいけない。 むしろ、目覚めてからが本番だ。 社会復帰のための活動や、薬の投与、心理相談など、やることは山積みなのだ。 「まだやることはたくさんあります。首に縄を巻き付けて、いざとなったら引き倒すようにしてもらってもいいので、どうか、私を患者様の所へ連れて行ってはくれませんか?」 数人が息を呑むような気配がした後、なにやら話し合いが行われ始める。 そんなことどうでもいいので、早くしてくれ、と思っていると、扉が開く音がした。 そして、誰かが近付いてきて、首に何かが巻かれる感覚がする。 その後、目隠しを外された。 ようやく自由になった視界で周りを見渡すと、私が居たところは牢屋の中のようで。 こんなところに居たのか、と驚く。 首を触ると、麻縄があり、本当に巻かれたのだ、と実感する。 冗談のつもりではなかったし、このまま解放されず、患者様を放置するよりはいいと思うので、別にいいのだが。 「出ろ!」 後ろに立っていたのは、烏天狗の兵士様のようで、腹式呼吸で出される声は鼓膜に響いて、少しだけ驚いた。 牢屋の格子の向こうにはレイ様が居て、すまなさそうにこちらを見ていて。 大丈夫です、と音を出さずに口を動かして伝えようとする。 私はそのまま患者様、コウ様の部屋へと向かったのだった。 多分、行っている最中の絵面は犬の散歩のように見えただろう。
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