壱ノ巻

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「ああ、おかえ・・・り・・・。」 にこにこと優しい笑みを浮かべていたコウ様が、私の首の麻縄を見た瞬間に、硬直する。 まあ、そうなるでしょうね。 恐らく沸点が低いのであろうケイ様が私の縄の先を持っているアヤカシの兵士様に詰め寄った。 「ちょっと、何やってんの?この子、コウの命の恩人なんだけど?」 「で、ですが・・・危険因子でもあります。それに、この状態は、この危険因子が望んだことでもあります。」 「あ、被虐趣味ではありません!診察をさせてもらうには、こうするしかないと思いましたので。」 麻縄が締め付けを増したので、口を出すな、ということなのだろうが、変な誤解だけは避けたいのだ。 「・・・本当に、そのままでいいの?」 シン様が心配そうに声を掛けてくださった。 「はい。私のことよりも、コウ様のことの方が、大切ですので。」 それだけは間違いない。優先順位としては、コウ様の方が高い。私は二の次どころか、三の次、四の次だ。 不満そうなケイ様とシン様に笑いかけ、後ろの兵士様に薬棚へ向かう旨を伝える。 飼い犬が飼い主を引っ張るように進み、薬棚で薬を煎じる。 ゴリゴリと薬草が砕かれ潰される音が響く中、誰も口を開かず、声も出さず、とても静かでやりにくいと感じた。 「飲み水をお願いします。」 女中さんにお水を持ってきてもらう間に、問診を終わらせようと、コウ様と向き合った。 「コウ様、何度も聞いて申し訳ないのですが、具合のほどはいかがでしょうか。」 「ああ、なんだか世界が変わったように気分がいい。肩の凝りも取れた。」 「痛いところや変に感じるところはないですか?」 「特にないな。」 「そうですか。ですが、体調を整える薬は飲んでいただきますね。」 「ああ。」 しばらくすると、お水を持っていつのも女中さんがやってきた。 「小鈴様。お持ちいたしました。」 「ありがとうございます。では、お飲みください。」 「おい!」 グッと首が締まる。 「まず、貴様が毒見せよ!」 「は、はい・・・。」 苦しい・・・。 「あ、あの・・・緩めてください・・・。」 「む・・・。」 首の麻縄が緩まり、ようやく息ができるようになる。 私は毒見をして、安全だと表明してからコウ様に薬を飲んでもらったのだった。
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