壱ノ巻

32/36
620人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
次は着物を着換えてもらおう。 一日ごとに換えてはいたが、今日の分はまだだ。 久方ぶりに動かれただろうし、喋られた。汗もかいているだろう。 普通は掠れて声も出ないのだが、すぐに滑らかに喋れるようになるなんて、流石はアヤカシ様だ。 そんな見当違いなことを考えつつ、女中さんにコウ様の着替えを頼む。 「汗もかかれたでしょうし、着物を着換えていただきます。着替えの補佐はいりますか?」 「いや、大丈夫だ。」 「コウ様は長い眠りから起きられたばかりです。感覚や関節も鈍っている恐れがございますので、何かあれば遠慮なくお呼びください。」 「ああ。分かった。」 そして、時間があるので、横になってもらい、これからの治療について話す。 「これからの治療について説明いたしますね。まず、起き上がることができていらっしゃいますので、次は立ち上がることができるように訓練していきます。筋肉の衰えが考えられますので、ゆっくり慣らしていくことにしましょう。」 「ああ。」 「続いて、食事についてですが、消化器官も衰えていることが予想されるので、まずは重湯からです。そこから慣らして、お粥にしていきましょう。」 「・・・そんなに手間をかけるものなんだな。」 「恐れながらコウ様は病人でいらっしゃいます。人間の基準で考えるのは異なるかもしれませんが、ゆっくり癒していけば、いずれは元の元気な体に戻られることでしょう。」 アヤカシ様を治療したことはないので、どうすればいいか手探り状態だが、命があれば何とでもなる。 頑張ろう。 そう思った時。 バタバタと急ぐ足音が聞こえ、部屋の前で兵士のアヤカシ様が叫ばれた。 「首領が、首領がお出でです!」
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!