壱ノ巻

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「へぇ、こんな小さい人間が、腕利きの薬師?」 人よりも高位の存在であるアヤカシ様は、一部の例外を除いて、ほとんど人の前に姿を現さない。 一生に一度どころか、祖先まで遡っても会った者は片手で足りる程度だろう。 そんな方が、なぜこんな片田舎どころか胸を張って田舎だといえるような村の薬師に会いに来たのだろう・・・? 気まぐれか、それとも、私の力が必要だというのだろうか? 驚愕したまま固まってしまっていた私は、アヤカシ様から見れば、滑稽極まりないだろうが、意外にもアヤカシ様のお怒りを買うことはなかった。 「・・・そろそろいい?」 「は、はいっ!」 穏やかな声によって、現実に引き戻される。 「僕が君に会いに来たのは、僕の家に患者がいるから。僕の家のやつが、正体不明の病で倒れたんだよ。」 正体不明の、病。 「僕らはあまり病にはかからないんだけど、アイツ全然治らなくてさ。しかも、どんどん悪くなってるみたいで、どうにかしてやりたいんだ。で、人間ならどうにか分かるかなって思って、色々なトコから高名な薬師だとか医師だとかを連れてってるんだ。」 アヤカシ様がかかる、正体不明の病、数日経っても治らない。     
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