九章 監獄の赤い燭

9/14
前へ
/14ページ
次へ
・ 赤い瞳 隠していた鋭い爪 グレイはキュバスの顔を仰がせると軽く拳を握りその鋭い爪で自身の手のひらを傷付ける。 そして流れ落ちる血の雫をキュバスの唇に垂らした。 “我の血を受けし異物の者よ 我の力を与えてやろう” 「我の滅する時までこの血の契約は違えられぬ…そうその身に刻んでおけ。いいな…」 そして、我が滅する時はその下僕も滅する時だがな… 汝に囁くは捕縛の言葉 キュバスは黙ったまま静かに頷いた。 口に入ったグレイの血が咽喉を伝って流れていく。 ごくりと喉を鳴らすと途端に身体の中が燃える様に熱を持ち始めた。 「ああぁっ…何!?熱いっ!腹が焼けるっ!」 キュバスは苦しそうに石の床をのたうち回る。 「伯、爵様っ…たすけっ…」 「一時の苦痛だ。直ぐに治まる」 息も絶え絶えにもがくキュバスを冷たい瞳で見つめるとグレイは苦しむキュバスの項(うなじ)に逆さの十字架を指先で描く。 それは一瞬煙りを立てると焼き印のようにキュバスの肌に黒く焼き付いていた。 同時に腹の傷みも消えていく── 力尽きたのか、背を向けたまま動くことなくキュバスは肩だけで激しい呼吸を繰り返していた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加