九章 監獄の赤い燭

2/14
前へ
/14ページ
次へ
・ 水滴の落ちる音が闇の中で響いていた── ヒヤリとした空気が辺りを包む。地下牢の石畳の天井には冷たい水が滲んでいた。 鉄格子の扉で閉ざされた暗い部屋で何かがバタバタと身悶える。その“何か”は階段を響かせてコツコツと鳴る革靴の音に、身をバタつかせていた。 「むやみに暴れても自分の羽が傷付くだけだが?」 階段から降りて近付いてくる赤く揺らめく蝋燭の焔とともに低く静かな声が掛かる。 冷酷な視線を投げたまま微動することのない紅い瞳。 捕らわれていたその何かは紅い瞳に見つめられると急に頭を抱え呻き声を上げた。 それは高い声で苦しそうにキィ──ッと叫ぶ。 のたうちながら石畳の床にへばり付くと鎖に繋がれていた脚がジャラジャラと鉄の擦れる音を立てやがて静かになった。 グレイは蝋燭を置くと格子牢の向かいに備えてあったテーブルに腰を落とす。 そして用意されていたグラスにワインを注いだ。 グラスを優雅に揺らし、グレイは際立つワインの香りを目を閉じて味わう。そして静かになった牢の中に目をやった。 「身が疼くか?」 尋ねながら半ば馬鹿にしたようにクスリと笑いを溢す。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加