九章 監獄の赤い燭

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・ 暗闇で、牢の中のそれは密かに震えていた。 程よく肉の付いた滑らかな大腿。鎖でぐるぐるに巻かれた胴体は素肌を覗かせ荒い呼吸に波を打つ。 汗のように肌から吹き出す体液はねっとりと透明な糸を引いていた。 ねじれた二本の角の頭をももたげ、恨めしげにグレイを下から見据える。 背中から伸びた骨組みも露な二枚の羽を抗うように三度ほどバタつかせるとキュバスは諦めたように首を項垂れた。 蝙蝠のような羽は傷付いた部分から透明な血を流す。 汗も血も粘液のように糸を引き淫靡な香りを漂わせ滴り落ちていた。 腰かけた椅子を軋ませ、グレイは苦し気な表情のキュバスをまるで余興でも楽しむかの様に眺める。 残り少ないワインを口に含むと舌で転がしゆっくりと喉へ流す。そしてグレイは椅子から立ち上がった。 グレイの前にある鉄格子の扉が高い音を立てひとりでに開く。 その音に首を項垂れていたキュバスの身が一瞬強張っていた。
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