九章 監獄の赤い燭

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・ 「さあ…始めるとしようか…」 顔を伏せていたキュバスの視界に手入れの行き届いた革靴のつま先が映る。 グレイは手にした鞭をシュッとしならせ大きく振り上げた。 「──!っ…」 肌を裂くような音。声にならない呻きがキュバスの唇から漏れる。 グレイは面白くもない、そんな顔を見せた。 「どうした?もっと苦痛に喚いてみろっ」 「…!っ…アアッ…」 容赦なくグレイの鞭がキュバスの肌を打ち付ける。 グレイは鞭打つ手を止めると背後からキュバスの髪を鷲掴んだ。 「何をしでかしたかは覚悟の上か?」 恐怖と痛みで息が上がる。 キュバスの耳元に顔を寄せるとグレイは凄みながら首筋に舌を這わせた。 剥き出しにされた牙がキュバスの首筋に強くくい込む。 「夢魔ごときが何を企んだ…」 「ウグッ…」 「言え!」 「──…!…ギャァ──」 悲鳴と共にキュバスの喉元から吹き出した体液が壁に散っていた。 「あぅっ…っ…」 空洞の中に荒い吐息が響く。激しい息遣いが壁に反射して何人も居るように地下牢はざわめいていた。 鮮烈な痛みと恍惚が入り交じる。グレイはワインの瓶を逆さに鷲掴むと鞭で裂かれたキュバスの熱い傷口に掛け流した。
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