九章 監獄の赤い燭

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・ グレイは妖しく唇を舌舐めづりする。そしてキュバスの背中を滴るワインに舌を這わした。 「…ああぁっ……くぅっ…」 吸血鬼の唾液がじわりと染みて赤い傷口を塞いでいく。 そうしてはまた牙を剥き出して背中に新たな傷を作った。 痛みと癒し、それを交互に与えながらグレイは舌を這わしたまま口端でニヤリと笑った。 「お、御許しを…伯爵、様…っ」 背中に食いつかれたまま慈悲を乞う。 「貴方様の力が欲しくて…っ…あの人間の娘に憑けば貴方様の精気を吸い付くせるとっ……」 「…ふん、やはりそんなところか」 グレイは力なく口を開くキュバスの肌から顔を離した。 夢魔がとり憑けばすぐにわかること。ましてやキュバスは夢の中で獲物と交わり精気を吸い尽くす淫魔だ。 入れ物(人間の女)にとり憑き淫靡な香りと仕草で餌(人間の男)を狩る。 普段のルナから見られることのない色気を魅せればなおのこと。 「人間の精を貪っていればすむものを、夢魔が何故に力を欲する」 「……我等が人間を狩りに行けるのは月が満ち始めた宵だけ…月の力が弱まれば人間に憑くこともできない…それまでは同じ魔物を餌にするしか…っ…」 キュバスは吐息を乱し、途切れ途切れに口を開く。
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