十章 甘い棘

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・ 朱かった外の景色はいつの間にか蒼く暮れている── 肌寒くなる季節は夜の訪れも早い。食事を済ませ、浴室へと向かったルナを見送るとモーリスは自室へ入った。 自室のベットの脇に一つだけポツンと置かれたロッキングチェアにモーリスは腰掛ける。 年代物の実に高価そうな椅子だ。 モーリスはそれに揺られながら棚に立て掛けられた小さな額の肖像画に目を向けた。 その中では人形のような愛らしい金髪の少女が微笑んでいる。 「イザベラ…」 モーリスはそう呟くと懐かしむように笑みを浮かべた。そしてその傍らでフッと空気が動いた。 「──…!」 「感傷に浸り中か」 「これは旦那様っ…」 モーリスは背後からした声にそう答えた。 突然の訪問。前触れも無しに現れた主人にモーリスは少し驚いたように椅子から立ち上がる。 「構うな、そのままでいい。骨粗しょう症とやらが痛むのだろう?」 少しイヤミを含んだ笑みを溢すとグレイはモーリスに椅子を進めた。 グレイはモーリスが眺めていた肖像画の額を手にした。 「懐かしいな…ここに置いてあったのか?」 「ええ…イザベラはここの湖を気に入っておりましたから」 モーリスの答えを聞きながら納得するとグレイは本題に入った。
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