十章 甘い棘

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・ 「ルナはどうしてる」 「今、ご入浴中でございます」 「なるほど…ならば問題ないな」 そう言ってドアへ踵を反した主人をモーリスは椅子から立ち上がり呼び止めていた。 「旦那様」 「なんだ?」 グレイは振り返らずに脚だけ止めた。 「どうか優しくして差し上げてくださいませ…」 主人の背中に深々とおじきをする。そんなモーリスにグレイは背中越しに、ふんっと鼻で応えていた。 長い脚が白い木目の廊下を蹴る。グレイは浴室の前に辿り着くとドアの奥のカーテンを勢いよく開けた。 「きゃぁ──っ!」 驚いたルナの声と同時にカーテンを開けたグレイへシャワーが向けられる。 ルナは立ち塞がるグレイに気付き目を見開いた。 「どうしてっ!?」 「それはこっちが聞きたいな」 頭からびっしょりと濡れたグレイは黒い髪を掻き上げると呆れた目を向けていた。 「ここには来ないってモーリスがっ」 「来るも来ないも俺の自由だ──」 「あっ──!」 グレイはルナの腕を掴むとその手からシャワーを奪う。掴んだルナの手を押さえつけ冷たい壁にルナを追い込むとグレイは耳元で囁いた。 「見事な出迎えの洗礼だな──俺にも濡れた服を脱げと言わんばかりだ…たまには気の利いたことをするじゃないか?…あ?」 「なっ…そんなつもりじゃっ」 ルナはカッと顔を赤らめた。
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