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そんなルナの手元をもそりと何かが這った。
「…きゃっ!?…」
驚いてルナは短く叫ぶ。
「おやおや、こんな所まで来てはいけませんよ…ほほ」
荷物を部屋の片隅に置いたモーリスはルナの傍までくると、手摺を這っていたトカゲに声を掛けながら手柔らかに追いやる。
紺に近い深い緑色の背に金色の模様が螺旋状に入っているそのトカゲは、ルナを振り返るような仕草を見せてバルコニーの下へと隠れた。
トカゲの這った指先をルナは何度も服で拭う。ほんの一瞬のことにも関わらずやけに感触が残り後を引く。
「せっかくいい気分になれたのにっ!」
ルナの口からはそんな言葉が漏れていた。
気を持ち直すようにルナはもう一度深呼吸をするとまた遠くを見つめ目を細めた。
手入れの行き届いた森林。湖も澄んで鏡のように辺りの景色を映し出している。
魔物の森に囲まれたあの館のバルコニーから眺める景色とは全く違う。額に収めたらどこかの有名な画家が描いたような風景が一面に広がっていた。
あの館に連れて来られてからルナが外の世界を見たのはたった一度きりだ。
あそこで過ごし始めてからもう三ヶ月はとうに越えた…
ならば人間の世界では三百年以上が過ぎているということになる。
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