十章 甘い棘

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・ 死の街に変わり果ててしまったあの街並みは一帯どうなったのだろうか? 街から外れた生まれ育った孤児院は? 当たり前だが、もう誰もルナを知る者は生きてはいない。 ルナは瞼を重く閉じた。 つんとした寂しさが急に胸を襲ってくる── また目を開けて遠くを見つめると滲む涙で景色が歪んで見えた。頬を伝う涙がポトリと手摺に落ちる。 やるせない── でも自分にはどうすることも出来ない── ルナは唇を噛み小さく鼻を啜ると部屋の中へと戻ってカーテンを閉めた。 ルナの気持ちに同情したのか外は穏やかな風が吹きチラチラと枯れ葉を踊らせる。 郷愁漂う人気の去ったバルコニー。そこへ先程追い払ったトカゲがそろりと姿を現した。先の割れた長い舌を伸ばすとトカゲはルナの落とした涙の雫を何度も掬っては喉を潤していた──。 陽も落ちかけ、遠い向こうで夕暮れが滲む。 青い空と緋色の境目が見事な景色を描いていた。
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