十章 甘い棘

6/40
前へ
/40ページ
次へ
・ どのくらい振りだろう…こんな景色を見るのは…… 「……!っ…ねえモーリス!!」 居間のバルコニーに居たルナはハッとして夕食の支度をするモーリスを振り返った。 「はい、いかがなさいましたか?」 「ここってまさか人間の──」 ルナの途中までの問い掛けにモーリスはにっこりと頷く。 「やっぱり…」 どうりでだわ…あの魔物の屋敷からはこんな景色は見られなかった… ずっと薄暗く夜なのか昼なのかもはっきりとわからない。ただ月だけは昇ったり沈んだり… 夕焼けなんて見たこともなかった… 「そうか…あそこには太陽がなかったんだ…」 ルナは呟いた。 「人間の世界はこのところ流行り病や争い事で騒がしかった…やっと落ち着いた頃を見て旦那様はルナ様の息抜きをとお考えになられたので…やはり人間の世界は我々魔物の異世界とは違いますかな?」 モーリスにルナは小さく頷いた。 「ここは人里離れた避暑地でございますから、街に出れば人が溢れてございます」 「人が居るの!?」 「もちろんでございます」 ルナの頬が弛んだ。 「ねえ、じゃあ明日街にっ…」 高揚して言葉を弾ませるルナにモーリスは首を横に振った。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

127人が本棚に入れています
本棚に追加