十章 甘い棘

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・ 出会ってから初めてみる少女らしい笑顔。卵をボールに割ってかき混ぜるルナを眺め、モーリスも何処かしら懐かしげにルナを見つめていた。 ルナがフライパンを握って一生懸命作ったオムレツが食卓に並ぶとモーリスも一緒にテーブルに着いた。 「ちょっと失敗しちゃった」 スクランブルになりかけたオムレツが皿に乗っている。 「味は大丈夫でございますよ」 何よりも一番にオムレツに手をつけたモーリスがそう答える。 主のフィアンセと執事。その二人が一緒に食卓を挟むのは初めてのことだった。 心なしか元気になったように思える。 この別荘へ息抜きに来たのは正解のようだ。モーリスは明るくなったルナに一つ提案した。 「あまり遠くへは無理でございますが…街へお出掛けされたければ私から旦那様にお願いしてみます」 「…!っほんとに!?」 ルナは顔を綻ばせてモーリスを見る。 「許しをお得れば、ですが」 「わ、わかったわ」 緊張気味にごくりと唾を飲む、そんなルナにモーリスは満足そうな笑みを返した。
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