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 瀧川がスーツは男の顔だからと、専務秘書になる際、瀧川の行きつけの店に連れて行かれ、仕立ててくれた。瀧川が常に着用しているスーツとは生地のグレードが全然違うそうだが、それでも関谷のような平凡なサラリーマンにはもったいなさ過ぎる代物だ。支払いまでしてもらってしまって、お金は何度差し出しても受け取ってくれなかった。  以来年二回、ボーナスの時期になると恐縮する関谷をよそに、「自分の秘書がダサいのが嫌だから」と一着ずつ増えてゆく。少し年を取ると強引なのは瀧川のやさしさだと気付き、それ以来はありがたく頂いている。 「なんかエロいな……それ」 「な……んで?」  陽太は不機嫌さを隠そうともしなかった。腕組みをし、関谷に責めるような視線を向ける。   「だって半年にいっぺん、そうやって身体をチェックして、「ちょっと腰回りしっかりしてきたな」とかいってそのときにぴったりなもん、作るんやろ…………なんか妬けるわ」 「妬けるって……誰に?」 「せやからその専務に!」  関谷はぱちくりと数回瞬きをした。それから、客観的にはその様子が怪しく見えることにも気付いた。  だが実際は瀧川は多忙のため同行は一度のみで、以降は時期になると「行ってこい」と命令されるだけだ。あちらではすべて話が通っていて関谷はマネキンに徹しているしかない。 「そ……そうなんや。ならええ……ってこともないなあ、やっぱり……」     
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