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「それでも彼に出会えたことには……とても感謝してます」
そんなこと全然、知らなかった。彼の喜びも苦悩も知ろうとしないで、自分ばかり疑心暗鬼になってひどいことを言った。
そもそも彼が何者かだなんて、知ろうともしなかった。関谷に知らなかった世界をみせてくれた人なのに……。自分は陽太になにも返してあげられなかった。
「……関谷、大丈夫か?」
涙が止まらない。取り返しのつかないことをして、もう吹っ切ったはずだったのに。彼と出会う前の、ひとりに戻っただけなのに。ずっと抱えていた喪失感が急に重みを帯びて、押しつぶされそうだ。
「専務、申し訳ありません……ちょっ、と……先に帰ります」
「おいっ! どうしたんだ、アレ」
瀧川のあきれ声を背に店を出ると、自然と駆け足になっていた。彼に会わなくちゃ。
嫌われてても、罵られてもいいから、彼の存在がどれだけ関谷に彩りを与えてくれたかということだけは、伝えたい。伝えなければいけないと思った。
スマホを取り出し、陽太の名前を表示させタッチする。とりあえず着信拒否はされていないようだが、呼び出しのコールだけがむなしく続くだけで、やがて留守番電話サービスに切り替わった。
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