248人が本棚に入れています
本棚に追加
関谷は音楽に疎いからまったく知らなかったが、メジャーデビューをするくらいのミュージシャンなのだから、忙しくて当たり前なのかもしれない。暇そうな自由人にみえたのは、陽太にとってちょっと人生の休憩をしているときで、だからいつも一緒にいてくれたのだ。
陽太が遠い存在になってしまったことをひしひしと感じた。はじめに抱いた印象よりもずっと、関谷とは違う世界の人で、果てしなく遠い。
もう一度コールする勇気はなくて、とぼとぼと帰路についた。
自宅に戻り、いつものように浴室へ直行する。潔癖気味な関谷の癖を陽太は理解して合わせてくれていた。するりと転がり込んできたくせに、そういうところには本当に敏感で、気遣いをしてくれた。
シャワーを終えるとクローゼット開け、見ないようにしていた彼の荷物を取り出す。大きなバッグにそっと触れてみた。追い出すようにしてしまったから、必要なものもあったかもしれない。今更ながら自分の勝手さに嫌気がさした。主に洋服ばかりだが、ここに置きっ放しにしていたらまずいものがあれば、また連絡をする口実になる。
もう、身勝手な思いを抱いている自覚すらないくらい、必死だ。バッグに手をかけようとしたとき、インターフォンが鳴った。
「う…………そ……」
最初のコメントを投稿しよう!