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人と向き合ってこなす仕事にはとてつもなく力を発揮するのに、なぜか書類の類いを子供の宿題のように煙たがる。役員なのだから書類処理からは逃れられないはずなのだが、これはもう病気みたいなもので、いくら下が困るからと口うるさくいっても、のらりくらりとかわそうとする。瀧川が総括を担う部署である営業課も、長らくこのことに困り果てていた。大きな仕事、時間をかけて綿密に進めないといけない案件ほど、上のゴーサインがないと動けないことが多い。
関谷が瀧川の秘書になった当初はギスギスしていた営業課との関係は、関谷が間に入り瀧川のケツを叩くことで、時間と労力の大幅な節約になることがわかると、専務の机の上を片付けたい関谷と、仕事を迅速に進めたい営業課の利害が一致し、現在のように一応は良好な関係を保っている。
確認しながらとったメモを見ながら、重要な部分は目的別に色分けしてマーカーを引き、要確認の部分には付箋を貼った。書類は瀧川の机上に重要度の高いものから目につくよう並べてゆく。
今日はもう急ぎの仕事はないし、瀧川は別行動で直帰だ。帰れるときには早く帰ろう。うーんと伸びをして、上着を羽織ると会社を出た。
「ノブさんのところ、今ならまだ混んでないかな……」
料理が得意でない関谷は、帰りが遅くなるとコンビニ弁当が続いてしまう。今日は時間に余裕もあるし、最近寄れなかった行きつけの洋食店で夕食を食べようと思いつく。とろとろたまごのオムライスや、チキンのグリルなど、どれを食べようかと考え、自然と足取りも軽くなった。
「お兄さーん」
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